2021年9月号

フィラデルフィアで開催されるASMSに参加を予定されている方は、展示ホールの327番ブースでお待ちしております。現在海外への渡航が困難なため、ユーザーミーティングでの発表は昨年に引き続きオンラインのみとさせていただきます。詳細は次号のニューズレターでお知らせします。

今月のブログでは、ver.2.8新機能、Error Tolerant検索[拡張2段階検索]の強化内容についてご紹介します。

今月の論文は、唐辛子に含まれる抗菌ペプチド探索のアプローチをご紹介しています。

今月の小技は、Mascot Daemonを使用する際イオンモビリティ値をピークリストにエクスポートする方法についてご説明しています。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

ErrorTolerant 検索の信頼性向上

Error Toleraant検索は1)想定外の修飾、2)非特異的切断を伴うペプチド、3)アミノ酸残基置換 の3つを検出する事ができる2段階検索です。Mascot Server 2.8 では、Error Tolerent検索の改良が行われ、2回目の検索結果にも信頼度を示す expect 値が計算・表示されるようになりました。

検索パラメーターでDecoyデータベースの使用が指定されている場合、以下のような処理を行います。

  1. Target(通常)データベースとDecoyデータベースに対して1回目の通常検索を行います。
  2. 1回目の検索で有意なマッチが得られたタンパク質だけを集めたデータベースが2回目の検索に使用されます。Target,Decoyはペアで扱い、どちらかが同定基準を超えるペプチドがアサインされた場合、両エントリーとも2回目に使用されます。
  3. 2回目の検索では酵素の特異性を緩和するとともに網羅的な翻訳後修飾と残基置換を考慮した詳細な検索を実施します。
  4. 1,2回目両方の検索結果をまとめたレポートが作成されます。

なお1回目の検索で同定基準を超えた結果については2回目の詳細な探索には回らず、1回目の結果がそのまま採用されます。

FDRの具体的な数値を同定基準として指定していた場合、2回目に回るqueryとタンパク質の選出、並びに2回目の同定基準の両方に適用されます。

Error Tolerant検索機能の詳細と、各種パラメーターが検索結果に与える影響についてはこちら(英語日本語)をご覧ください。

辛すぎて手が付けられない:ゴーストペッパーに含まれる抗菌ペプチド

Too Hot to Handle: Antibacterial Peptides Identified in Ghost Pepper

Kevin D. Culver, Jessie L. Allen, Lindsey N. Shaw, and Leslie M. Hicks

J. Nat. Prod. 2021, 84, 2200-2208

唐辛子は主にカプサイシノイドとその辛さで知られていますが、その他にも多くの生理活性物質が含まれています。著者らはその生理活性物質に着目した研究を行うべく、まずゲノムデータから抗菌ペプチド(AMPs,AntiMicrobial Peptides)を探し出すことから始めました。

SignalP(訳者注:配列からシグナルペプチド領域を予測するプログラム)を使って、in silicoなプロテオーム情報からシグナルペプチドを予測してその領域を切断し、残ったペプチドをCysmotif Searcherというプログラムで分析して、システインモチーフの候補領域を探しだしAMPsの候補115をリストアップしました。続いてゴーストペッパー(訳者注: Capsicum chinense × frutescensの種間雑種で非常に辛い事で有名)の抽出液を分取しLC-MS/MSで分析して115の候補リストと照らし合わせ、その中からこれまでによくわかっていない15を特定しました。

この抽出液を多数の病原体に対してアッセイしたところ、抽出液が高い抗菌作用を示すケースがありました。PepSAVI-MSという統計解析プログラムを用いて化合物をフィルタリングし観察された生物活性に直接的に影響をしていると思われる化合物候補を絞り込んだり、de novo sequencingを実施してペプチドの配列と構造を検討して、最終的に2つのAMPsを見つけ出しました。この2つのAMPsは既知のAMPsと相同性はほとんどない新規のもので、大腸菌などの複数のグラム陰性菌に対して低いμM 抗菌活性(IC50)を示しました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Mascot Daemon:イオンモビリティ値をピークリストにエクスポート

Time flies like an arrow

Mascot Distiller 2.8 は Bruker timsTOF データの読み込みに対応しています。Mascot DaemonとMascotDistillerを組み合わせて使用しRawファイルをバッチ処理しているユーザーの方が、ピークリストにプリカーサーイオンのモビリティ値を含めたい場合、以下の操作を行う必要があります。

  • WindowsにAdministrator権限を持つユーザーとしてログイン。
  • Windowsの検索バーに「cmd」と入力
  • 候補一覧に表示されたコマンドプロンプト(cmd.exe)を右クリックし、「管理者として実行」を選択
  • MascotDistiller.exeが格納されているディレクトリに移動(デフォルトではC:Program Files\Matrix Science\Mascot Distiller)
  • MascotDistiller.exe -batch -daemonMGFIonMobilityParam 1
    のコマンドを実行

ピークリストにイオンモビリティ値が出力されていれば、定量計算を行う際イオンモビリティ値を使ったフィルタリングも使用可能です。詳細は、Mascot Distiller のヘルプおよびこのブログ記事(英語日本語)をご覧ください。

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