曖昧なアミノ酸 B,X,Zとカスタマイズ可能なアミノ酸J,O,U
Mascotでは、タンパク質およびペプチド配列の表記に、IUPACの1文字コードを採用しています。 20種類の標準アミノ酸は、A,C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Yの大文字で表されます。残りのアルファベットである B,J,O,U,X,Z もMascotでサポートしていますが、特別な意味があります。
曖昧なアミノ酸残基 : B, X, Z
IUPACの1文字コードでは、B, X, Z は曖昧なアミノ酸残基を表します。「B」はアスパラギン酸(D)またはアスパラギン(N)を、「X」は不明なアミノ酸(unknown)を、「Z」はグルタミン酸(E)またはグルタミン(Q)を意味します。Mascotでは、X を20種類の標準アミノ酸のいずれにも一致するものとして解釈します。そのため実質的に「未知のアミノ酸」に対応する事ができます。これらの文字は、SwissProt、UniProt、NCBI nr などの公開配列データベースでも使用されていますが、実際に出現する頻度はそれほど高くありません。
各アミノ酸のデータベース中における出現頻度は、Mascot Server のDatabase Statusページで確認できます。確認したいデータベースまでスクロールし、Statistics をクリックしてください。表示されるテキストファイルには、アミノ酸残基の総数(Total number of residues)、配列数(Total number of sequences)、アミノ酸出現頻度表(AA frequency table)など、さまざまな統計情報が含まれています。Number of residues : 208906902 Number of sequences : 575503 Residue Frequency A 17247358 B 276 C 2902631 [...] X 8183 Y 6110160 Z 249
UniProtについても、アミノ酸の出現頻度は UniProtKB Release Statistics で確認できます。上記の SwissProt 2026_02 の統計情報を見ると、100万残基につき Xで39 個、Bで1個、そしてZでも 1個という割合になっており、各エントリーに含まれるかどうかという観点で言えば全体の約0.01%に含まれています。一方、UniProtKB全体(TrEMBLを含む)では、B と Z の割合はほぼ同程度ですが、X ははるかに多く、残基ベースでは0.01%、配列ベースでは約0.05%の配列に含まれています。
データベース検索においてMASCOTは、 B,X,Z に対して対応する文字への置き換えという処置を行います。例えば、ペプチド配列が PEBTIDE の場合、Mascotは PEDTIDE と PENTIDE の両方を生成し、それぞれをMS/MSスペクトルと照合します。検索時間が過度に長くなるのを防ぐため、1つのペプチドについて展開する曖昧残基は、BまたはZの場合3文字、Xは最大1文字までに制限されています。これらのルールについては、こちらのリンク[Amino acid reference data ] にまとめられています。
検索結果ファイルには、元の配列(PEBTIDE)と、ペプチドスペクトルマッチ(PSM)が得られた際に実際に適用されたアミノ酸置換が記録されます。そして通常、検索結果の表示やエクスポートでは置換後の配列すなわち曖昧さを解消した配列の方が表示されます。一方、曖昧な配列そのものは Protein View レポートに表示され、mzIdentML 形式でエクスポートした場合にも含まれます。
残念ながら、それ以外のエクスポート形式では、アミノ酸残基の曖昧さを表現することができません。B、X、Z は曖昧残基であり、検索時には必ず具体的なアミノ酸へ置き換えられるため、可変修飾(Variable Modification)の修飾部位として指定することはできません。一方、残る J、O、U は事情が異なります。
カスタムアミノ酸残基 J, O, U
J、O、U は特別な文字であり、ユーザーが設定を変更できます。デフォルト設定では、「U」にはセレノシステイン(selenocysteine)が、「J」にはロイシン(L)またはイソロイシン(I)が、「O」にはピロリジン(pyrrolysine)が定義されています。そしてこれらの元素組成(composition)は Unimod に基づいて定義されています。お使いの Mascot Server では、Configuration Editor の Amino Acids を開くと、J、O、U の各項目の横に Edit リンクが表示されます(下図参照)。
IUPACがOをピロリジン(pyrrolysine)の正式な1文字コードとして承認したのは、比較的新しい2009年のことです(Biochemical Nomenclature Committee of IUPAC and NC-IUBMB Newsletter 2009 )。一方、1980年代には、セレノシステインはXで表記されていましたが、その後まもなくUへと統一され、1999年に正式に採用されました(IUPAC-IUBMB Joint Commission on Biochemical Nomenclature (JCBN) and Nomenclature Committee of IUBMB (NC-IUBMB) Newsletter 1999 )。 J をロイシン(L)/イソロイシン(I)の記号として用いる方法は、標準化されていません。実際、UniProtKB では J は一度も使用されていません。他の2文字、U は約100万残基につき2 個、O は0.1個未満、含まれています。かなり以前には、現在では使われなくなった MSIPI データベースで、J が「無条件の切断部位(unconditional cleavage site)」として使用されていました。しかし現在では、Jを採用している公開配列データベースは、ほとんど(あるいは全く)存在しません。そのため、非標準アミノ酸残基を検索対象として扱いたい場合には、J、O、またはUを独自に割り当てて利用するのが有効な方法です。
J、O、U は、可変修飾(Variable Modification)の修飾部位としても自由に使用できます。Unimod には、セレノシステイン(U)を対象とする標準修飾がいくつか登録されていますが、ピロリジン(O)を対象としたものは登録されていません。
- Carbamidomethyl (U)
- Carboxymethyl (U)
- Oxidation (U)
- Dioxidation (U)
- MolybdopterinGD (U)
もちろんいつものように、お使いの Mascot のローカル設定において任意の化学修飾を追加することもできます。
酸化ピロリジン(O+18) は比較的よく用いられる検索パラメータです(例:Hideki Yokoyama ら、2026)。また、別の最近の論文(Chenfang Si ら、2025 )では、Uのカルバミドメチル化およびUの脱セレン化(deselenation)をMascotに設定して解析を行った例もありました。さらに2018年には、Bernd Thiede らが、J、O、U をそれぞれヘキソース、GlcNAc、シアル酸の記号として利用し、糖ペプチドを表現する興味深い手法を報告しています。
機械学習アルゴリズムにおける非標準アミノ酸残基
Mascot Server 3.0 以降では、検索結果を機械学習によって再評価する際に、フラグメントイオン強度予測ツール MS2PIP を利用できます。しかしMS2PIP は B、J、O、U、X、Z のいずれの非標準アミノ酸残基にも対応していません。ただしB、X、Z については問題ありません。Mascotが機械学習を実行する前に、これらを必ず具体的なアミノ酸残基へ変換するためです。一方、J、O、U を含むペプチドについては、MS2PIP を有効にしている場合、MS2PIPによる予測対象から除外され、予測スペクトルと実測スペクトルとの相関係数は0として扱われます。
J、O、U を含むペプチドの割合は通常ごくわずかであるため、再評価後の検索結果への影響はほとんどないと言えるでしょう。予測スペクトルが利用できなくても、Percolatorが利用するその他のフィーチャー(core features)によって十分に補われます。しかし、配列データベース中にセレノシステインやピロリジンを含むタンパク質が多数存在する場合は、MS2PIPモデルを選択しないことをお勧めします。
Keywords: configuration files, modification, pyrrolysine, selenocysteine, Unimod