2021年7月号

今月のブログでは、より速く、より正確なラベルフリーの定量が可能になったMascot Distillerについてご紹介します。

今月の論文は、ダイナミックなタンパク質複合体の迅速なラベリングと分析を研究した論文についてご紹介します。

今月の小技は、Percolatorの計算と保持時間に関するお話です。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Mascot Distiller 2.8:ラベルフリー定量の高速化

Mascot Distiller 2.8ではXIC,抽出されたイオンクロマトグラムの相対強度を利用ラベルフリー定量法の計算が改善され、Distiller 2.7.1と比較して2~3倍の計算速度となり、メモリ使用量も約3分の1になりました。

Mascot Distiller 2.8では定量計算の初めに「グローバルタイムアライメント」を実施します。アライメントは同定ペプチドの情報を出発点とし、トータルイオンクロマトグラム(TIC)の信号処理に適応した再帰的相互相関法を用いて各rawファイルをラフに並べる事からはじめます。その後さらにより詳細なアライメントが実施されます。これまでのバージョンと比較してのメリットは以下の通りです。

  • サンプルファイルは個別に処理・検索されるため、メモリ使用量を削減することができます。またXICの検出も個別に行われ、より効率的な並列化が可能です。
  • ファイル間の保持時間のずれに関して、ユーザーがパラメータとして指定をする必要がなくなりました。アライメントによる計算値がそのまま適用されます。

新しいバージョンのラベルフリー定量計算を評価するため、HeLa細胞に4つの異なるレベル(量)でスパイクされた大腸菌を含む12のサンプル(4種類×3回の繰り返し実験)のデータセットを分析しました。 定性結果としては1%のPSM FDRという基準を適用して、ヒトのタンパク質2072個、大腸菌のタンパク質317個を同定しました。また定量結果としては、期待される量比が5、2、1.5のそれぞれのデータに対して、Distiller 2.8は5.54、2.00、1.64という結果となり、他のソフトウェアの結果と比較しても遜色ありませんでした。

Distiller 2.8による定量計算高速化についての詳細はこちら(英語日本語)をご覧ください。

[日本法人より補足]

MASCOT Server検索と相性の良いこのDistillerラベルフリー定量計算にご興味がある方は是非弊社までお問合せください。試用などが可能です。 チュートリアルもご準備しています。

紡錘体形成チェックポイントのコアタンパク質の近接結合をマッピングする

Mapping Proximity Associations of Core Spindle Assembly Checkpoint Proteins

Yenni A. Garcia, Erick F. Velasquez, Lucy W. Gao, Ankur A. Gholkar, Kevin M. Clutario, Keith Cheung, Taylor Williams-Hamilton, Julian P. Whitelegge, and Jorge Z. Torres

Journal of Proteome Research Published online June 4, 2021

紡錘体形成チェックポイント(SAC)は、細胞分裂の際の染色体分離が確実に、そして忠実に実行されるために不可欠です。SACの制御がうまくいかないと、腫瘍化や化学療法剤への抵抗性を引き起こす可能性があります。著者らはSACの反応経路に関わる制御因子を明らかにすることを目的としています。しかしながら、SACのコアタンパク質とそれらが形成する複合体やサブ複合体との間の関連性は動的である事から、SACのタンパク質ネットワークの全容を明らかにすることは困難な問題です。

著者らは、BioID2タグ付きタンパク質細胞株用のベクターを開発し、SACの5つのコアタンパク質のそれぞれにタグを融合させました。 細胞内で発現させると、これらのタンパク質は相互作用するタンパク質や近接するタンパク質をビオチン化するように誘導されます。 ビオチン化されたタンパク質はストレプトアビジンビーズで精製され、ビーズ上でトリプシン消化され、そこで得たペプチドについて 2D LC-MS/MSで分析しました。また相対的な定量解析としてプロテインカバレッジとemPAIプロトコルを用いて評価しました。

SACのコアタンパク質のそれぞれについてタンパク質の近接結合マップ(proximity maps)を作成しました(その作成時に、筆者自身で作成したRのスクリプトを駆使しています)。その後、これらの近接マップを統合して、SACのコアネットワークの概要図を作成しました。 近接マップとネットワークに、精査された機能データベースの情報を組み合わせることで、システム全般にわたった関連性の分析を行う事ができました。

今回の解析ではこれまでに報告されているSACの中核的なタンパク質間相互作用、サブコンプレックス、複合体の多くを再確認した事に加え、多くの新しい関連性も発見されました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

PercolatorとRetention time

Mascot tip

Mascot Serverに送信されたピークリストに、RTINSECONDSパラメータとしてLCの保持時間(RT,retention time)の情報が含まれている場合、Percolatorの計算においてそれらの値をペプチドランク再評価の際に考慮する事ができます。

保持時間情報をPercolatorで計算に使用するオプションはインストール時にはデフォルトで無効になっていますが、mascot.datのOptionsセクションでPercolatorUseRTを1に設定することで有効になります。但しお気をつけ頂きたいのは、弊社では総合的な観点では利用しない事をお勧めしているという点です。Percolator で保持時間の情報を含んだ計算は非常に時間がかかる反面、ほとんどの場合感度(この場合は同定ペプチド数)の向上はわずかです。逆に現在Percolatorの計算で非常に長い時間がかかっているという事であれば、一度この設定を確認してみてはいかがでしょうか。

サーバー全体の設定を変えずに個別の結果に対してRTを加味した計算をしたい場合、レポートのURLにpercolate_rt=1という引数を手動で追加する事で計算可能です。

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