2022年1月号

あけましておめでとうございます。

今月のブログでは、MASCOT Distiller向けに推奨するハードウェアスペックについてご紹介します。

今月の論文は、質量分析によるSARS-CoV-2抗体の量や均一性評価に関する研究をご紹介します。

今月の小技は、MASCOTの結果画面Protein Family Summaryのデフォルト表示についてご紹介します。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

MASCOT Distillerを使用するハードウェアの選択

Mascot Distillerで使用するコンピューターの仕様に関して多くの質問を頂きます。CPU、メモリ搭載量、ディスクドライブ(SSDまたはHDD)の選択、といった具合です。この記事ではそれらについて言及したいと思います。

Mascot Distillerの多くの計算工程はマルチスレッド化対応がされており、並列処理により高速化します。Mascot Server とは異なり、Mascot Distiller ではライセンス数による使用コア数の制限を設けていないため、利用可能なすべての CPU スレッドを使用して並列処理する事ができます。

ピークピッキング、定量化、de novo sequencingにおいて、Mascot Distillerで使用できるスレッド数を1,3,6,12の4つのポイントでテストを行ったところ、スレッド数の増加に伴いそれぞれ6~8倍の速度向上が見られました。全体の処理時間を決定する要因はCPUコア数だけではないものの、一般的には多くの人にとって最新の8コアのCPUの使用が、コストパフォーマンスの良い選択と言えます。

RAM(搭載メモリ)の目安としては、最低でも16GB、非常に大きなデータセットを処理する場合は32GB以上を推奨しています。

ハードディスクについては、ピークピッキング、定量化、de novo検索のベンチマークテストにおいて、SSD(ソリッドステートドライブ)を使用した方がハードディスクドライブよりも5%ほど性能が向上しました。

詳しくはこちら(英語版日本語版)をご覧ください。

質量分析による次世代の血清学: SARS-CoV-2抗体レパートリーの読み出し

Next-Generation Serology by Mass Spectrometry: Readout of the SARS-CoV-2 Antibody Repertoire

Rafael D. Melani, Benjamin J. Des Soye, Jared O. Kafader, Eleonora Forte, Michael Hollas, Voislav Blagojevic, Fernanda Negrao, John P. McGee, Bryon Drown, Cameron Lloyd-Jones, Henrique S. Seckler, Jeannie M. Camarillo, Philip D. Compton, Richard D. LeDuc, Bryan Early, Ryan T. Fellers, Byoung-Kyu Cho, Basil Baby Mattamana, Young Ah Goo, Paul M. Thomas, Michelle K. Ash, Pavan P. Bhimalli, Lena Al-Harthi, Beverly E. Sha, Jeffrey R. Schneider, and Neil L. Kelleher

J. Proteome Res., published online: December 08, 2021

著者らはSARS-CoV-2に対する免疫状態をより正確に評価する方法を開発し血清学的検査を改善する事を目的としています。著者らが開発したIg-MS法は、患者の血漿から特定の標的に対する抗体を分離し、重鎖と軽鎖(HCとLC)に分解します。その後HCとLCのフラグメントをIndividual ion mass spectrometry(I2MS) で分析します。この方法では従来のタンパク質の質量分析よりも500倍ほど希釈したサンプルを用いて、不均質なタンパク質サンプルの質量分布を生成することができます。

著者らはSARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)を共有結合した磁気ビーズを用いて抗体を結合・濃縮するための’餌’を作成し、COVID-19の回復期血漿を用いてアッセイの性能を検証したところ、90%以上の回収率でした。

抗体を濃縮後、2つの異なるワークフローを適用しました。 ワークフロー1では、Ig-RBDをそのまま溶出、標準mAbと結合させ、自由に動ける状態でHCおよびLCプロテオフォームを生成させるために完全に還元/変性させました。一方ワークフロー2では、Ig-RBDがビーズに付着した状態のままIdeSプロテアーゼで消化し、F(ab′)2とFcを生成します。その後プロテアーゼとFc(HCのグリコシル化を含む)が洗浄され、溶出したF(ab′)2を変性・還元してLCとFdドメイン(〜25〜28kDa)を生成しました。

著者らはこれらのワークフローから2つの指標を作成しています。その1つ、イオン価(IT,Ion Titer)はELISA抗体価に似ており、mAb標準に対するすべてのLCピークの強度を用いて計算しています。 もう1つはクローンの均一性の度合い、Degree of Clonality (DoC)です。混合物中のすべてのLCクローンの複雑さ(プロテオフォーム)を測るもので、数値が大きいほど複雑なIg-MSスペクトルであることを示しています。

DoCとELISAや発光実験の結果との相関は低かったものの、ワークフロー2で得られたITとELISAの結果との間には有意な正の相関が見られました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Protein Family Summaryのデフォルト表示

Protein Family Summaryは、約12年前にリリースされたMascot Server ver. 2.3で新たに導入されました。それまで非常に大規模な検索結果を開く事ができなかったり非常に時間がかかっていたことを踏まえた改善でした。MS/MSの検索結果を分割し1ページずつ表示し、クライアント側のメモリやブラウザに大きな負担をかけず、大規模な検索結果でも閲覧することができます。同定タンパク質は階層的なクラスタリングによってファミリーに分類され、protein inference (同定タンパク質リストの中身の吟味、推定)をより直感的に、より正確に行うことができます。導入時既存のワークフロー利用者への影響とバランスを考え、300以上のMS/MSスペクトルを検索する場合にのみProtein Family Summaryが使用され、小規模な検索では従来のPeptide Summaryレポートが引き続き使用されるようデフォルト設定されました。

Ver.2.3でProtein Family Summary が登場して以降、この結果画面に対して多くの新機能・仕様変更を実装してきた一方、Peptide Summary にはそれらの変更が適用されず、特別な例以外使用されなくなりました。そこで弊社では Mascot 2.8 のアップデートを機に、Protein Family Summary をすべての MS/MS 検索のデフォルト表示となるよう仕様を変更いたしました。

MASCOT ver.2.8より前のバージョンをご利用の方でProtein Family Summaryをすべてのケースで表示するようにされたい方は、簡単な設定変更で対応可能です。Configuration Editor→ Configuration Options画面を開きMASCOTのパラメーター設定画面を開きます。一覧に含まれるパラメーター、ProteinFamilySwitchの値を300から1に変更し、画面下のApplyボタンを押してください。この操作により常にProtein Family Summary画面が開くようになります。Protein Family Summary画面からpeptide summary画面を見たい場合は、レポートヘッダーにある「Try the peptide summary」リンクをクリックしてください。

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