2025年7月号 (#128)

今月のブログは、私たちが開発を進めている「Mascot DIA」のご紹介です。スペクトルマッチングを中心に据え、汎用的に利用可能な検索エンジンです。

今月の論文は、温帯海洋生態系の研究に適用されたメタプロテオミクスワークフローについてのご紹介です。

今月のお知らせは、旧バージョンのMascot Serverを持つユーザーに向けてのキャンペーンについてです。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

スペクトル中心方式のDIA解析の展望

現在弊社では、DIAデータの分析に適用可能で、スペクトル中心方式に基づく汎用的なソリューションである「Mascot DIA」の開発を進めています。Mascot DIAは、次期リリース予定であるMascot Distiller 3.0における新たなプリカーサー検出技術と、同じく次期リリース予定であるMascot Server 3.2における「ノイズ耐性確率的スコアリング」を組み合わせて実現されています。両製品は現在ベータテスト中です。私たちがキーワードとしている「スペクトル中心方式の検索」について少し掘り下げて説明いたします。

「ペプチド中心方式」と「スペクトル中心方式」は、主に検索エンジン開発者が興味を持つような広義の技術用語で、ボトムアップLC-MS/MSデータの分析における相補的な手法と言えます。スペクトル中心方式が重視するのは、MS/MSスペクトル内のピークのマッチングを可能な限り説明づける事です。理論上の断片ピークが観測されたピークと十分に一致する時、プリカーサーは同定されたものとみなされます。

一方ペプチド中心方式の解析においても、LC-MS/MSの測定において理論的なプリカーサー(ペプチド)の根拠を見つけます。ほとんどのペプチド中心方式のプログラムは、理論的に検出可能なプリカーサーのライブラリとのマッチングから始まり、MS/MS スキャンにおけるフラグメントピークの溶出を追跡します。高い相関をもつトレースが十分な数見つかった場合、プリカーサーが同定されたとみなします。

両者の方式の境目にはあいまいな点もありますが、スペクトル中心方式の検索にはいくつかの利点があります:

  • 偽陽性のリスクが低い事。ペプチドの同定には同じスペクトル内でb/yイオンの良好な検出が必要であり、少数の低強度フラグメントマッチだけでは同定できないようになっています。
  • MS/MSスペクトルのすべての情報が利用される事。例えばニュートラルロスを含む情報は、翻訳語修飾の位置特定に不可欠です。
  • 確率スコアリングを適用できる事。サンプル固有のスペクトルやクロマトグラムライブラリを事前に作成する必要がありません
  • ライブラリが不要なため、変異修飾や酵素の選択に制限がない事。
  • 詳細なチュートリアルはブログ記事(英語版日本語版)をご覧ください。

    北海における春季植物プランクトンブルーム期間中の細菌プランクトン群集の半日周期変動に関するメタプロテオミクスデータセット

    Metaproteomic Dataset on Semi-Diurnal Variability of the Bacterioplankton Communities During a Spring Phytoplankton Bloom in the North Sea

    Vaikhari Kale, Jürgen Bartel, Daniel Bartosik, Philip Berhard Lude, Chandni Sidhu, Hanno Teeling, Rudolf Amann, Thomas Schweder, Dörte Becher, Anke Trautwein-Schult

    Proteomics, 0:e70001, 23 June 2025, doi:10.1002/pmic.70001

    著者らは、北海の植物プランクトンブルームにおける浮遊性細菌群集の分類学的およびプロテオーム的変化を調べるために、メタプロテオミクスのワークフローを用いています。植物プランクトンブルームは、細菌プランクトンブルームを引き起こすことがあり、そしてこれらは海洋の炭素循環において重要な役割を果たします。日変化サイクルを研究することの意義を示す一例として、著者らは1日1回のサンプルデータと比較して、早朝と遅い時間帯のサンプル間における65の関連する細菌属で見られた有意な変化を報告しています。

    著者らは3日間にわたり、1日2回の半日周期でサンプルを採取しました。海水サンプルは濾過され、細菌群集が抽出・溶解された後、SDS-PAGEで分離しています。ゲル内消化後、サンプルはDDAモードのLC-MS/MSで解析され、Mascot Server を用いた2段階検索が採用されています。1回目の検索はメタゲノム由来のデータベースに対して行われ、その結果はScaffoldで統合後、必要な情報を得るためにフィルタリングを行いました。次に、8つの時系列ポイントで同定されたタンパク質を含む冗長性のないサブセットデータベースが作成され、そのサブセットデータベースに対して2回目の検索が行われました。検索結果は1回目同様Scaffoldにおいて厳格な基準を適用しフィルタリングされています。その結果、2,050万のMS/MSスペクトルのうち、590万スペクトルが高い信頼性で同定され、サンプルごとの平均同定率は28%でした。

    Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

    MASCOT Server バージョンアップキャンペーンのお知らせ

    Illustration for Mascot

    2025年10月のwindows10サポート終了に伴い、Windows11非対応のMascot Server ver.2.7およびそれ以前のバージョンをご利用のユーザー様へキャンペーンを実施しています。Windows11ワークステーションPC付のMascot Server ver.3.1 (または購入時点での最新版)へのアップデートを、特別キャンペーン価格にてご提供いたします。また同時にver.2.8にてご利用のユーザー様にもお求めやすい価格でのアップデートが可能です。

    詳しくはこちらをご覧ください。

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