今月のブログは、ピーク面積とSN比の使い分けについてです。
今月の論文は、二つの標識法の組み合わせを応用したタンパク質のターンオーバーの割合に関する研究です。
今月の小技は、MASCOTのロールベースのアクセス制御機能についてです。
Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版、日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
Rawデータをプロファイルモードで保存した場合、ペプチド同定前にピークリスト作成処理を行う必要があります。ピーク検出アルゴリズムはスペクトル内の各イオンにm/zと強度を割り当てます。Rawデータ情報からイオン強度を算出する方法は複数あり、その選択は同定結果に影響があります。
その主な2つの選択肢はピーク面積とSN比です。これらのことについて最近Hijaziらは論文「Mind Your Spectra: Points to be Aware of When Validating the Identification of Isobaric Histone Peptidoforms. (J Proteome Res. 2025)」を発表しています。論文の中で著者らは高度修飾ヒストンの診断イオンについて調べています。
低質量側にでる診断などに使用するイオンの強度は、rawデータと比較して明らかに想定的に数値が低くなる一方、高質量側ではrawデータを人間が見たときの感覚に近い結果となりました。しかしこの状況は、イオン強度としてSN比を利用するよう切り替えると状況が逆転しました。低質量側の診断用のイオンピークは強度に対して面積が小さいため、SN比を利用した方が適しています。
一部のソフトウェアパッケージでは選択の余地がなく、デフォルトでSN比を使用する場合があります。Mascot Distillerはデフォルトでピーク面積を使用するが、SN比に切り替えることができる。両方のやり方を比較するためデータを再処理した結果、ピーク面積を使用した方がMascot検索結果のペプチド同定数の向上につながることが判明しました。一方、診断イオンの利用を優先・強化する場合は敢えて検索結果の品質が若干低下することを許容しつつSN比を使用する方が良いこともあります。詳しい内容についてはこちらのブログ記事(英語版、日本語版)をご覧ください。
Henock M. Deberneh, Michael E. Taylor, Kamil A. Kobak, Michael T. Kinter, Benjamin F. Miller, Rovshan G. Sadygov
Communications Chemistry 8, Article number: 375 (2025), doi:10.1038/s42004-025-01762-1
重水を用いた代謝標識は酵素消化ペプチドの同位体プロファイルを変化させます。単一同位体の相対存在量減少の時間経過をモデル化することでタンパク質のターンオーバーの割合を推定できます。従来、非標識サンプルと重水標識サンプルは別々のLC-MS/MS分析で解析され、標識サンプルを使ったデータの正規化によって定量解析が行われてきました。本研究において著者らは軽・重ジメチル標識を用いて非標識サンプルと重水標識サンプルを二重標識化し、単一のLC-MS/MS実験として解析を行いました。これにより、合成率の算出結果と同位体分布に基づく計算結果を、同一実験条件下で直接比較することが可能となりました。
マウスには低脂肪食とD2O濃縮飲用水を段階的に投与し、肝臓および血漿サンプルを調製後LC-MS/MS(Thermo Orbitrap Exploris)DDAモードで測定してMascot Serverで検索を実施しました。ジメチル標識を可変修飾として選択し、#13Cパラメータを2に増加させることで、13Cが複数含まれたペプチド同定のカバーを可能にしています。データは自ら開発したソフトウェア(d2ome-dimethyl)を用いてターンオーバーの割合を計算しています。その結果、ジメチル+重水素二重標識サンプルでは解析の複雑性が増したため、ペプチド同定数は二重標識していないサンプルより低かったものの、計算されたターンオーバーの割合は従来の2サンプル法とも良好な相関を示しました(ピアソン相関係数0.945)。
Mascot Serverには、Mascot Securityと呼ばれるロールベースのアクセス制御の仕組みが備わっています。ロールベースでのログイン制御システムには様々な適用方法があります。
パスワード保護された管理機能: Mascot Securityを有効化すると、すべての設定が管理者アカウントのパスワードで保護されます。「ゲスト」アカウントを有効化すると、ユーザーはパスワードなしで検索の送信と結果の閲覧が可能になります。
可視性とプライバシー設定:ユーザーをグループに割り当てることができます。プライバシー設定により、異なるグループのユーザーが検索結果を閲覧できるかなどの権限を制御する事ができます。
優先度と制限の設定:特定のユーザーやグループに対して、コンピューターの計算リソースへのアクセス権限を高くまたは低く設定できるほか、データベース検索の実行時間やサイズを個別に制限する事ができます。
より詳細な例は、オンラインヘルプの「セキュリティ」セクションに記載されています。
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