2022年11月号

今月のブログは、検索エンジンが示す同定の根拠についてです。

今月の論文は、正鎖RNAウイルス感染に伴う宿主細胞のリン酸化プロテオームの変化についての研究です。

今月の小技は、仮想環境でMASCOTを使用する場合の注意点についてです。

また、来月メキシコのカンクンで開催されるHUPO 2022 Congressに出展する予定です。ブース#411にお立ち寄りいただき、ご挨拶とMascot製品の最新情報をご確認ください。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

検索エンジンが示す同定の根拠

データベースの検索結果を見ていると、様々な疑問が湧いてくるかもしれません。

  • なぜ検索エンジンはそのタンパク質を同定したのか?
  • 同定ペプチドの根拠は何か?
  • 検索ソフトはどのような選択肢を検討したのか?
  • このアルゴリズムは実際に何を行っているのか?

ソフトウェア主導のアプローチによるデータ解析では、これらは基本的で重要な疑問と言えます。

コンピュータが常に正しいと思い込むのではなく、抜き打ちチェックを行う事も大事です。ご紹介するブログ記事では結果を評価するためのいくつかの提案をしています。

MASCOTのPeptide Viewでは、各ペプチドのピークマッチング結果を確認することができます。Mascot は各スペクトルのベストマッチのトップ 10 を記録します。フラグメンテーションの検証から、測定時やピークピッキング時の問題が見つかる事があります。それらはそのままにしておくと同定率の低下に繋がる事もあります。

統計アルゴリズムは(否定を前提とした)仮説によって内容が定義されます。エラー率による較正をため、ターゲット-デコイ検索を実行することをお勧めします。さらに、ターゲットとデコイそれぞれにてマッチしたフラグメントについてマッチング内容や質量誤差の分布などを比較し、FDR(False Discovery Rate)推定によって定められた新たなスコア閾値が妥当であるか確認します。

Protein Family Summaryレポートのデフォルト設定では、タンパク質について最低1つの有意なユニークペプチドがアサインされている事で同定タンパク質としてリストアップされます。同定タンパク質についての信頼度を高めた場合の結果を確認したい場合、このアサインペプチド数の基準を2つ、3つ、またはそれ以上と変更したリストを作成させる事もできます。

より詳しく解説はこちらのブログ記事(英語版日本語版)をご覧ください。

EV-A71感染ヒト細胞の経時的なプロテオミクスおよびリン酸化プロテオミクス

Temporal Proteomic and Phosphoproteomic Analysis of EV-A71-Infected Human Cells

Yue Zhao、Lin Li、Xinhui Wang、Sudan He、Weifeng Shi、She Chen

J.Proteome Res., 2022, 21, 2367-2384

著者らは、ヒト横紋筋肉腫(RD)細胞にエンテロウイルスA71(EV-A71)を感染させた際のプロテオームとリン酸化プロテオームの変化について調べました。 EV-A71は乳幼児や小児に感染し、手足口病の原因となります。

RD細胞に感染させ、感染後0, 1, 2, 4, 8, 12時間で回収しました。 細胞を溶解・消化し、TMT 6-plexでペプチドを標識しました。その後標識ペプチド混合物を、強陽イオン交換(SCX)分画、高pH逆相分画、通常の逆相カラム分画の3つの方法で分離しそれぞれ10、8、13の分画が得られました。リン酸化プロテオミクス研究では、通常の逆相カラムで分画されたペプチドをさらにTiビーズで濃縮しています。

ペプチドはLC-MS3を用いて測定され、7,821個のタンパク質を定量することができ、そのうち75%が少なくとも2つのペプチドの定量データを基に計算されています。また17,000以上のリン酸化部位を定量し、そのうち10,121個の部位(3,433個のタンパク質にアサインされている)を高信頼性クラスIリン酸化部位として分類しました。 さらに感染の時間経過に伴い、宿主細胞のリン酸化プロテオームが細胞全体のプロテオームよりも大きく変化していることも明らかにしました。

著者らは、キナーゼが関与するいくつかの重要なリン酸化シグナルカスケードを同定し、それらがタンパク質翻訳、細胞周期制御、細胞生存などの宿主細胞機能の変化をもたらすことを明らかにし、抗ウイルス薬開発のターゲットとなる可能性を示唆しました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

仮想環境におけるMASCOT

Diagram of hardware virtualisation

Mascot Serverが仮想化に対応しているか、また対応している場合どのように仮想マシン(以下VMと記載)を構成すれば最適なパフォーマンスが得られるかという質問をよく受けます。一般的にMascot ServerやMascot Distillerを仮想環境で動作させることに問題はありませんが、良好なパフォーマンスを得るためにはリソース割り当てで一部注意が必要です。

なんといっても最も重要な要素はプロセッサの仮想化設定です。物理サーバーは当然ながらMascot Serverライセンスが稼働可能なコア数(2022年11月現在、1CPUライセンスにつき6コア)と同数以上搭載している必要があります。ホストが複数のVMを実行している場合、Mascot VMに適切な数のvCPUを割り当てる必要があります。Mascotと同じコア(vCPU)を使用する他のVMの存在は、間違いなくMASCOTの処理速度を低下させてしまいます。またホストプロセッサがハイパースレッディングを実行している場合、ハイパースレッドは物理コアと同等ではないにも関わらず、「独立した」vCPUとして表示されてしまう事がよくあります(訳者注:ハイパースレッドのコアかどうか見分けがつかない状態になっている事がある、という意味です)。最高のパフォーマンスを得るためには、MascotのVMにはハイパースレッディングのコアではなく物理コアのみを割り当てるようにしてください。

ランダムアクセスメモリ(RAM)には、他のVMと共有されない一定量を割り当てます。最低でも16GB、できれば64GBが必要です。ディスクスペースは、通常多ければ多いほど好ましいです。ホストが複数の VM を実行している場合、RAID アレイを使用していれば複数の VM が同時にディスクの読み取りと書き込みができるため、ディスク・アクセスに有利になります

詳しくは、ハードウェア仮想化のヘルプページをご覧ください。

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