2022年12月号

今月のブログは、Distillerに新たに追加された定量データのレポートについてです。

今月の論文は、チューブリンの様々な翻訳後修飾とその機能への影響に関する研究です。

今月の小技は、TMT pro 定量メソッドの設定ミスとその対処法についてです。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Distillerに追加された定量レポート:ANOVA、箱ひげ図、クラスタリング、ボルケーノプロット、その他多数

Mascot Distillerでは図表による多くの定量レポートを出力可能です。最新バージョンではレポートはPythonで記述され、Mascot Parserを使用して検索および定量結果にアクセスします。 この基本部分の変更により柔軟性がアップしました。ANOVA、Box-Plot、様々なクラスタリングレポートやボルケーノプロットを生成するオプションが追加された他、RやPerseusなどのツールで使用するためにタンパク質やペプチドの定量データをエクスポートする新しいオプションも追加されました。

レポートは、ウィザードインターフェースを使用して実行され、フォーマットとパラメーターを指定します。静止画像をエクスポートしたり、Javascript対応のインタラクティブなレポートを使用して、ズーム、フィルタリングの実施や、注釈の追加など出版用のグラフィックを作成することができます。また、独自のPythonコードを記述することで、カスタマイズしたレポートを追加することも可能です。

新しいレポートの使用感を実証するため、S. cerevisiaeにおけるアラニルtRNA合成酵素の役割を調べた研究のラベルフリー定量データセットを使用してブログ記事をまとめました。 Mascot Distillerでrawデータを再処理し、PRIDEのエントリー上で説明されているのと同じ検索設定を使ってMascot Serverで検索し、Mascot Distillerで定量解析を実行しました。 また、データから生物学的知見の検証に関連する情報を明らかにするための様々なレポートを作成しています。こちらのブログ記事(英語版日本語版)でプロット例とレポートをご覧いただけます。

カタニン微小管切断における、チューブリンのグルタミル化とグリシル化の組み合わせと拮抗効果

Combinatorial and antagonistic effects of tubulin glutamylation and glycylation on katanin microtubule severing

Ewa Szczesna、Elena A. Zehr、Steven W. Cummings、Agnieszka Szyk、Kishore K. Mahalingan、Yan Li、Antonina Roll-Mecak

Developmental Cell, 57, 2497–2513, November 7, 2022

α、β-チューブリンのヘテロダイマーのポリマーである微小管は、細胞に構造を与え、紡錘体、繊毛、鞭毛などの形態的に多様な構造を構築し、細胞内輸送のためのトラックとして機能します。微小管は化学的に多様な翻訳後修飾(PTM)を受けており、これらの修飾は「チューブリン・コード」の一部として、微小管エフェクターの動員や活性を制御するのに役立っています。

著者らは、チューブリン尾部に集中するPTMがカタニンをどのように制御しているかを調べました。カタニンは微小管からチューブリンサブユニットを抽出しその長さ方向に切断するチューブリンエフェクターです。著者らは未修飾のヒトチューブリンを利用し、組み換えグルタミラーゼを用いてin vitroで修飾を行っています。

α-チューブリン上の平均グルタミン酸数が3以下の場合切断は非修飾微小管と比較して5倍以下に、平均グルタミン酸数が7以下の場合切断は9倍以下に促進されました。さらに、αチューブリンおよびβチューブリンのポリグルタミン酸化が進むと、微小管への結合が増加することがわかりました。β-tailのポリグルタミル化部位のMS/MSマッピングを行うと、E441で優先的にグルタミル化されて、次いでE438が好まれていて、E439、E442、E443では頻度が高くない事が示されました。

著者らはまた、αチューブリンの脱チロシン化(末端のチロシンの除去)がカタニンを制御しているかどうかを調べ、脱チロシン化がカタニンの微小管結合を減少させる一方で、切断も減少させることを明らかにしました。著者らはさらにこれら2つの修飾の組み合わせ効果についても調べ、αまたはβ尾部上のポリグルタミル化が、脱チロシン化による阻害効果を上回ることを見出しました。グリシル化は、カタニンの微小管結合と切断の両方をグリシン数に比例して抑制をしますが、アセチル化はカタニンの微小管結合や切断には影響を与えないことも明らかにしています。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

TMTpro に関する設定ミス

Mascot configuration editor

Mascot Server 2.8.1より、TMTpro 16-plexおよび18-plexの定量メソッドが追加されましたが、残念ながらこのTMTproメソッド(設定の組み合わせ)に少し間違いが含まれている事が判明しました。ご利用になられる予定がある方はお手数ですが文末に記す設定変更を行ってください。誤った設定の内容ですが、”TMT fixed”という”fixed modification”グループの設定で、”required”属性のチェックを入れない設定が正しいのですが、誤ってチェックを入れてしまっています。”required”にチェックが入っているという事は、該当修飾が含まれないと定量計算に使用されません。すなわち今回のケースではペプチドにKを含み、K並びにN末端がTMTpro のfixed modificationを受けている場合のみ、そのペプチドが定量計算に利用される事になります(条件が厳しくなっています)。もしペプチドにKが含まれていなければ必須条件である修飾もなく、定量計算にも利用されない事になります。本来この”required”属性はタンパク質がトリプシンで消化される前にラベル化された場合にのみ使用します(消化後にラベル化した場合は、”required”のチェックを適用しません)。

検索エンジンのMascot Serverは”required”がonでもoffでもfixed modificationで指定された修飾を適用して検索を行いますので、設定エラーがデータベース検索(定性・同定)自体に影響を与えません。しかし検索終了後、検索レポートは指定した条件にマッチしたペプチドのみを使って定量比を計算します。結果、本来あるべき設定より計算に使用されるペプチドが少なくなっています

ベータテストの段階でこのエラーを発見できず申し訳ありませんでした。次のバージョンのMascotでデフォルト設定も修正される予定です。ご利用の方は恐れ入りますが以下の修正を行ってください。
MascotのConfiugration Editor ->QuantitationからTMTpro 16-plex/18-plex をクリックして設定画面を開きます。”Method”タブで、”Modification group”の”TMT fixed”をクリックして該当項目の設定画面を開きます。遷移した画面内に表示されている”Required”チェックボックスのチェックを外し、[OK]をクリック、さらに戻ったひとつ前の画面で”Saave changes”ボタンを押して変更内容を保存してください。あるいはテキストエディタで quantitation.xml を直接編集する事で設定変更する事も可能です。2つの定量メソッドのrequired="true"属性について、required="false"に変更します。今回ご紹介したこの「奇妙な小技」を適用する事で、TMTproの定量計算に利用されるペプチドの数が倍増されます。

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