2023年11月号 (#108)

今月のブログは、複数ペプチドのフラグメントピークが混ざったキメラスペクトルのデータ解析についての記事です。

今月の論文は、シュワネラ膜タンパク質の翻訳後修飾解析に関する研究です。

今月の小技は、Mascot Distiller 2.8.5 についてです。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

MASCOT : 25年間にわたり信頼を受けてきた、質量分析によるタンパク質同定のリファレンススタンダード

キメラスペクトルのペプチド同定

環境サンプルのような複雑な混合物を分析したり、DIAのように広いプリカーサー分離ウインドウ設定を使用する場合、通常とMS/MSスペクトルの内容が異なります。複数のプリカーサーが同時に選択されたのち分断化され、フラグメントピークが混ざった「キメラ」スペクトルが生成される可能性が高くなります。キメラスペクトルは通常のデータベース検索よりも複雑で同定が難しくなります。

Mascot Serverは約10年前からキメラスペクトル検索をサポートしています。Mascot にてキメラスペクトルデータを検索するのは簡単です。Mascot Generic Format (MGF) ファイルの各queryに、複数のプリカーサーのm/zを表すPEPMASS行を追加するだけです。もしあなたがご利用のピーク抽出処理ソフトウェアが、MGFファイルに複数のPEPMASS行を出力できないのであれば、Mascot Distillerを使う事でそれが可能になります。是非お試しください。

話を戻して複数のPEPMASS行を含むMGFを受け取った際、Mascotが行うデータ処理について説明します。Mascotがこのようなピークリストを読み込んだ際、該当クエリーは2つ(またはそれ以上)の補助クエリーに分割されます。PEPMASS行ごとに1つずつ、それぞれの補助クエリーが元のピークリストのコピーを取得します。データベース検索中、ペプチドはそれぞれの補助クエリーで独立してマッチングとスコアリングがなされます。この時、他の補助クエリーでマッチしたフラグメントピークを、自身のマッチングではノイズとして扱いリストから取り除きます。このアプローチには多くの利点があります。例えばマッチしたペプチドは、明確なフラグメンテーションの証拠がなければ適切なスコアは得られない、という点です。

キメラスペクトルデータの検索結果を得たとしても、それを整理し結果に表示するのは容易ではありません。我々は補助的なツールとして、基本的な情報を提供するスクリプトを作成いたしました。どのバージョンのMascotでもお使いいただけますのでご興味のある方はダウンロードしてご利用ください。このスクリプトはピークリストファイルに含まれるスペクトルごとのプリカーサーの数を集計し、ペプチドが混ざっているスペクトルの内訳を表示します。 なお、FDR推定値をより確かなものとするため、デコイデータベースの種類をreverseからrandomに変更することをお勧めします。

キメラスペクトルの検索にMascot Serverを使用する方法についてはブログ記事(英語版日本語版)をご覧ください。

液体クロマトグラフィー質量分析法による、シュワネラ外側膜タンパク質翻訳後修飾の解析

Liquid-chromatography mass spectrometry describes post-translational modification of Shewanella outer membrane proteins

Jessica H. van Wonderen, Jason C. Crack, Marcus J. Edwards, Thomas A. Clarke, Gerhard Saalbach, Carlo Martins, Julea N. Butt

BBA - Biomembranes 1866 (2024) 184221

著者らは、シュワネラ(Shewanella)菌から精製された一体型膜複合体MtrCABの3つのタンパク質を調べるためのLC/MS法を開発しました。タンパク質をカラムに強く結合させた状態でメタノール水溶液を使って界面活性剤を完全に除去する2段階のプロトコルを利用しています。タンパク質はその後アセトニトリル水溶液によるグラジエント溶出によって分離されMSに直接注入されます。非イオン性界面活性剤ドデシルマルトシド(dodecyl maltoside, DDM)に懸濁された膜タンパク質は、タンパク質溶出の前に界面活性剤からきれいに分離されます。

MtrAとMtrBタンパク質のインタクトな質量は予測値(それぞれ38,570と75,052)と2Da以内で一致しましたが、MtrCタンパク質は予測値より552Da大きな値で測定されました。 MS/MSではMtrA (64%)、MtrB (94%)、MtrC (74%)各タンパク質で検出しうるペプチドを良好にカバーしましたが、MtrCのペプチド解析ではインタクトの質量分析で示唆されていた翻訳後修飾を裏付ける証拠を見つける事ができませんでした。そこで末端の翻訳後修飾を持たないMtrCの人工型タンパク質の解析を行ったところ、予測された質量と一致しました。 脂質の翻訳後修飾を示す他の研究結果と合わせ、今回検出されたMtrCタンパク質のインタクトな質量の増加は、N末端システインのパルミトレイン酸によるジアシル化の結果である可能性が高いと著者らは結論づけました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Mascot Distiller 2.8.5

Illustration for Mascot Tip

Mascot Distiller 2.8.5をリリースしました。このパッチリリースはバグの修正が中心となっています。バグ修正の対象は、階層クラスタリングのレポート作成機能、ツールチップテキスト、シーケンスタグ、PMF検索などです。

インストーラーを取得しインストールを行ってください。インストーラーの入手先はこちらです。

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