2025年8月号 (#129)

今月のブログは、Mascot DIAの新しいプリカーサーペプチド検出手法のご紹介です。

今月の論文は、歯や骨から中世修道院の食事内容を再構築した研究のご紹介です。

今月の小技は、Mascot Server 2.7以前のお客様にご注意いただきたい、Window10サポート終了についてです。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

Mascot DIA における プリカーサーペプチドの検出

弊社はDIAデータ解析のための汎用的でスペクトラム中心方式のプログラム「Mascot DIA」を近日中にリリースする予定です。Mascot DIAの新しい技術である、プリカーサーペプチド検出アルゴリズムについて説明しているブログ記事を紹介します。Mascot Distiller 3.0 に実装予定です。

Data-Independent Acquisition(DIA)では、選択した分離ウィンドウ内のすべてのプリカーサーペプチドをフラグメント化します。ソフトウェア上の課題のひとつとして、それらプリカーサーペプチドの質量をどのように割り出すか、という事が挙げられます。従来の方法では、配列データベースやスペクトルライブラリからすべての理論的プリカーサーペプチドのリストを作成し、分離ウィンドウに合うすべての質量を試しています。これに対し私たちのプログラムでは、MS/MSスペクトルで観測されたピークから直接プリカーサーペプチドの質量を推定する新しいアルゴリズムを採用しています。

簡単に言うと、このアルゴリズムではMS/MSスペクトルから相補イオンのペアになっている可能性がある2つのピークをすべて選び、そのm/zを足し合わせます。これにより、プリカーサーペプチドのMH+質量と余分なプロトンの質量が合わさったm/zの値が得られます。これをプリカーサーペプチドの m/z候補としてリストアップし、そのプリカーサーペプチドの m/zについて十分な数のピークペアが分離ウィンドウ内で見つかった時、さらにマッチングにおける候補として追加します。すべてのピークペア処理後、上位候補をデータベース検索に使用します。

この方法は従来法に比べていくつかの利点があります。

  • プリカーサーペプチドのライブラリ(質量と保持時間)が不要
  • あらゆる切断パターンや可変修飾に対応
  • セントロイド化データからでもプリカーサーペプチドの質量と電荷を決定可能
  • フラグメント化効率にあまり依存しない
  • b/y や c/z など、任意の相補イオン系列で動作可能
  • より詳しいことにについては、ブログ記事(英語版日本語版)をご覧ください。

    中世の食事を復元する:2つのヨーロッパ墓地のサンプルにおける安定同位体分析とプロテオーム解析の統合

    Reconstructing medieval diets through the integration of stable isotope and proteomic analyses from two European burial sites

    A. Pedergana, J. Grossmann, R. Turck, A. Goujon, F. Rühli, S. Wilkin, P. Eppenberger, C. Lehn

    Scientific Reports, 15, Article number: 26442 (2025), doi:10.1038/s41598-025-10103-0

    ヒトの歯から得られる安定同位体データは、その人の幼少期の食事に関する情報を提供でき、一方、肋骨からは成人期の平均的な食事構成の推測に役立つ情報が得られます。ただしこれらはあくまで大まかな情報しか提供せず、すべての食物成分を安定同位体データから確実に推定することはできません。

    歯石は歯の表面に形成された鉱化したバイオフィルムであり、植物や動物由来のさまざまな脂質やタンパク質を蓄えている可能性があります。著者らはドイツ(Dalheim)とスイスの2つの中世修道院墓地から採取した歯石、象牙質、骨試料を分析しました。歯石から得られた食事推定がコラーゲンから得られた推定と関連しているかどうかを検証することが分析の目的です。

    安定同位体の解析結果は、Dalheim の住民が主に陸生動物由来のタンパク質、そして C3 植物を摂取していたことを示していました。同位体分析では魚や豆類を消費していた事を明確に示す証拠は得られませんでしたが、プロテオームデータでは両方の存在が確認されました。特定された生物種群として、コムギ、大麦、キビ、エンドウ、ヨーロピアンパーチが含まれていました。ただし歯石からは、2つの遺跡どちらのサンプルも食事タンパク質の回収率がとても低く、合わせて16種類の食事タンパク質(34種類のユニークペプチド)・15人から回収に留まりました。相補的なこの2つの分析方法について、著者らは今後の課題として、保存方式の異なる歯石中のタンパク質構造に関する検討が必要があると指摘しています。

    Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

    Windows 10 サポート終了

    Illustration for Mascot

    Microsoft は、2025年10月14日をもって Windows 10 のメインストリームサポートを終了すると発表しました。もし Mascot Server 2.8 または 3.x を Windows 10 上で使用しているのであれば、Windows 11 へのアップデートを強く推奨します。

    しかしながらMascot Server 2.7 またはそれ以前を使用している場合、これらのバージョンは Windows 11 と互換性がありませんのでご注意ください。主な対応法は、「Windows 10 をそのまま使い続ける事」ですが、その場合は今後OS のセキュリティアップデートが受けられなくなります。Windows のアップデートが必要な場合は、Mascot を最新バージョン( 3.1) へアップデートしてください。最新バージョンは Windows 11で問題なく動作します。

    ご利用のMASCOT Server のバージョンを確認するには、ローカルでご利用いただいている Mascotのhome画面から「Database Status」をクリックしてください。Database Status ページ上部にバージョン番号が表示されます。

    以前のバージョンをお持ちのユーザーに向けてMascotアップデートをサポートするキャンペーンを2026年3月末まで実施しています。詳細はこちらをご覧ください。

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