今月のブログは、Proteome DiscovererでMASCOTの機械学習アルゴリズムを利用する際に推奨する設定についてです。
今月の論文は、人工的なアセチル基転移酵素を用いたミトコンドリアのアセチル化に関する研究のご紹介です。
今月のお知らせは、インドで新たに始まるMascot代理店販売についてです。
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Mascot Server 3.1では、Proteome Discoverer(以降PDと表記)からMASCOTに搭載されている予測ピーク強度(MS2PIP)および予測保持時間(DeepLC)を活用する事ができる機能が搭載されています。実行するためには、Mascot設定エディターでこれら予測ツールの設定を組み込んだInstrument設定を作成し、PD検索時にその設定を選んで検索してください。予測を有効にすると同定ペプチド数が増加しますが、他の装置と異なりPD経由では定量化計算されるタンパク質数があまり増加せず、その理由がよくわかっていませんでした。
解決策は、PDのMascotノード内の設定にありました。Mascot検索結果には、StandardとMudPITの2つのタンパク質スコアリングアルゴリズムがあります。MudPITスコアリングは2004年のMascot Server 2.0以来デフォルト設定とされ、PDでもこれがデフォルト設定でした。しかしながらMASCOT機械学習アルゴリズム機能を利用する際MudPITスコアリングを選んでいると、同定基準に問題が生じる事が判明しました。
MASCOTの機械学習アルゴリズムとの組み合わせを評価する時には、PDの設定でMudPITからStandardスコアリングに切り替えてご利用ください。機械学習アルゴリズムを有効化すると、Mascotは通常のペプチドスコアでなく、PEP(事後誤差確率)の対数をもとにしたペプチドスコアを返します。Standardスコアリングを選択していると、PDが各ペプチドの最適なlog(PEP)を単純に合計し、タンパク質スコアも統計的に妥当な値となり、protein FDRも正しく計算されます。
確認のため、ベンチマーク用LFQデータセットについて、各種予測を有効化し、MudPITとStandard scoringの差を検討しました。Percolatorノードのみ使用した場合、Percolator単独で実施した場合と比べ8%ほど同定ペプチド数が増加しました。そしてMudPITからStandard scoringを選ぶことで5%多くの定量化タンパク質が得られます。詳細はブログ記事(英語版、日本語版)をご覧ください。
Tadahiro Shimazu, Ayane Kataoka, Takehiro Suzuki, Naoshi Dohmae, Yoichi Shinkai
iScience, Volume 28, Issue 9113233 (2025), doi:10.1016/j.isci.2025.113233
NAD 依存性タンパク質脱アセチル化酵素 SIRT3 はミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアの脱アセチル化を担っています。著者らは、ミトコンドリア内で広範囲にわたってリジンアセチル化(以降AcKと表記)を誘導する人工的なミトコンドリア・アセチル基転移酵素(engineered mitochondrial acetyltransferase, 以降eMATと表記)を開発しました。その目的は、SIRT3 ノックアウトモデルでは不明な点を補うことができる、リジン残基の「超アセチル化」手法を評価することです。eMAT の特性、局在および機能は、免疫蛍光顕微鏡、フローサイトメトリー、LC-MS/MSを使って検討しました。その結果、著者らはeMAT が正常ヒト二倍体 h-TERT RPE1 細胞において細胞老化を促進する事を見いだしました。
eMAT によりアセチル化されるタンパク質を同定するため、著者らは Mascot Server と Proteome Discoverer を用いて、ラベルフリー定量および SILAC 実験を実施しました。コントロール(HEK293T)、eMAT 処理、eMAT+SIRT3 処理の各細胞からミトコンドリアを分離し、トリプシンで消化後、抗 AcK 抗体でペプチドを免疫沈降しました。LC-MS/MS を実行したところ、合計 1,403 個のペプチドが同定されました。eMAT処理サンプルと eMAT+SIRT3処理サンプル の間での同定ペプチドの重複は88% に達し、SIRT3 は脱アセチル化の際、 eMAT によりアセチル化されたタンパク質を標的にすることができる事が示唆されました。また代謝酵素上の複数のアセチル化部位が同定され、eMATやSIRT3がそれらのアセチル化レベルを制御可能である事が示されました。
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マトリックスサイエンス製品の日本国外における新たな販売代理店が誕生しました。
ライフサイエンス・分析・臨床検査室向け機器、ソフトウェア、サービス、消耗品を供給するBioInnovationsが、インドおよび近隣諸国の顧客に向けMascot Serverを取り扱います。販売契約はインドに加え、バングラデシュ、ブータン、モルディブ、ネパール、スリランカが対象です。
BioInnovations社はブルカー社の販売チャンネルでもあり、プロテオミクス向けMALDIおよびtimsTOF装置を提供しています。ブルカー社のBioToolsおよびBioPharma Compassと、Mascot Serverは高度な連携を行い、PMF法およびLC-MS/MSにおける信頼性の高いタンパク質同定を実現します。
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