今月のブログは、DIAスペクトルからペプチド同定を行うアルゴリズムについてです。
今月の論文は、リン酸化部位の同定と新規スプライシング調節機構に関する研究のご紹介です。
今月のお知らせは、Windows 11およびServer 2025向けの最近の更新プログラムが及ぼすMascotとIISウェブサーバーへの問題についてです。
Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版、日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
Data Independent Acquisition(DIA)では、結果の質を犠牲にしてタンパク質同定数を最大化することに重点が置かれすぎているのではないでしょうか。我々はこの課題に対処する、スペクトル中心のソリューション「Mascot DIA」を開発中です。従来のペプチド中心(Peptide centric)の手法とは異なり、ピーク強度や溶出時間に関する情報より、MS/MSスキャンで観測された全ピークの理論値との紐づけを行うことを重要視しています。
その中心となるアルゴリズムは、「ノイズ耐性スコアリング」です。MascotはNeutral Lossを含む理論フラグメントを測定スペクトルと比較し、それが偶然のマッチングであったと仮定した場合の確率を算出します。その確率がランダムマッチの域を超えたと判定されたとき、統計的に有意なマッチング結果であるとみなされます。
Mascot DIAでは、スペクトルのデコンボリューションや偽(シュード)DDAプロジェクションの作成、ライブラリからの予測スペクトルといったものを検索の必須条件としません。ピーク選択時にはピーク強度の情報が活用され、これまでよりも代表ピーク選別を行う際のウィンドウ幅を縮小しています。また、他のペプチド由来ピークをマッチング考慮時に適切に除く仕組みが「ノイズ耐性」です。このような仕組みにより、偽陽性数を抑制しつつ十分にフラグメンテーションをした証拠があるペプチドのみが同定されます。
Mark Bouska, Eduardo Callegari, Daniela Paz and Xuejun Wang
Kinases Phosphatases, 2025, 3(4), 20, doi:10.3390/kinasesphosphatases3040020
本研究は、SH3 ドメイン結合キナーゼファミリー 2(SBK2) が左心室の機能に重要な役割を果たすことを初めて in vivo で示す証拠を提示しています。著者らはマウスモデルで SBK2 の発現量を回復させる検討を行い、その相互作用因子の同定と作用機序の解明のために質量分析と AlphaFold による構造モデリングを行いました。定量プロテオミクスにより、マウス心室での SBK2 過剰発現に伴って発現が上昇・低下するタンパク質を同定しました。またパスウェイ解析の結果、SBK2 はアクチン/ミオシン骨格の編成に関与し、PTW/PP1 ホスファターゼ複合体に局在することが示されました。
この知見を受け、さらに二重エンリッチメント法によるリン酸化エンリッチメント解析を行いました。Mascot Server と Mascot Distiller を用い、修飾部位を特定するための解析アルゴリズムでリン酸化の同定と部位特定を実施しました。その結果、RABX5/RABGEF1 および セリン・アルギニンに富むスプライシング因子 7(SRSF7) が上位のリン酸化タンパク質として同定されました。RABGEF1 はミトコンドリアを標的とするユビキチン結合タンパク質で、重篤なミトコンドリア機能障害を引き起こすことが知られています。一方、SRSF7 は幼若型から成人型へのトランスクリプトーム移行を制御することが知られています。リン酸化部位のデータは計算解析とモデリングと統合され、SBK2 と SRSF7 の相互作用が明らかにされました。これにより著者らは、SBK2 が SRSF7 をリン酸化し、スプライシング因子を制御して心筋細胞の発生を促進するという新規メカニズムを提案しています。
Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。
Microsoft Windows 11およびWindows Server 2025向けの最新KB5070773更新プログラムにより、IISウェブサーバーに問題が発生しMascot ServerおよびIISウェルカムページが表示されなくなる可能性があります。これには「localhost」、コンピュータ名、IPアドレスを使用したウェブサーバーへのアクセスすべてのケースにおいて生じる問題です。さらに、この問題は即座に現れない場合があり、他の更新プログラム、インターネット接続、コンピュータの再起動など、様々な条件が関係していると考えられますが明確な関係性はわかっていません。
この問題が発生した場合、ひとまず取得したすべての更新プログラムがインストールされたことを確認し、コンピューターを再起動してください。すると自動的に「問題を引き起こすことが既知の更新プログラムに対するロールバック」が開始され、問題が解決されます。管理対象デバイスを持つ組織の場合、IT部門によって、ロールバックを展開するための特別なグループポリシーを実装させるための措置が必要になる可能性があります。これらの処理が行われることにより、Mascot Serverは再び正常に動作します。
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