2025年11月号 (#132)

今月のブログは、Mascot Daemonを使ったDDA TOP3定量解析結果のレポート作成についてです。

今月の論文は、アルマジロ、アリクイ、ナマケモノのZooMSペプチドマーカーに関する研究のご紹介です。

今月の小技は、Windows 10からLinuxへの移行についてです。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

DDA-PASEFデータの Top3定量解析

Mascot Daemonは、定量解析結果をタンパク質レベルで数値をまとめるレポート作成機能を有しています。定量解析はプリカーサーベース法(LFQ、SILACなど)とMS/MS定量法(iTRAQ、TMT)の両方に対応しており、さらにDaemon 3.0ではTop3定量(MASCOTでは「Average」という名称の手法)にも対応できるようになりました。Top3定量解析は、タンパク質にアサインされたペプチドの中で最も強度が高い3つのペプチドの平均値を利用します。

Top3定量解析は全てのDDA装置のデータに対してサポートしています。今回はその一例として、Bruker timsTOF(DDA-PASEF)で取得したPRIDEプロジェクトPXD028735のrawファイルによる解析例をご紹介します。このプロジェクトには2つのハイブリッドプロテオームサンプル(AとB)があり、それぞれ3つの繰り返し実験を含み、ヒト、酵母、E. coliタンパク質が既知量含まれています。rawデータに対してはtimsTOF用のデフォルト処理オプションを利用しました。プリカーサーイオンモビリティーフィルタリングの機能も有効にしています。これら操作はすべてDaemon上で実行・結果の統合をしています。

同定基準として 1% ペプチド配列FDRを適用したところ、372,444の有意なPSMから合計41,068のペプチド配列が同定され、8,001のタンパク質にアサインされました。unique_mz(異なる電荷状態・修飾状態の同一配列ペプチドをまとめて1つに表す)オプションを適用して定量解析結果を作成しました。ボタンをクリックしてその結果をCSVファイルとして生成し、ExcelやRに読み込ませる事ができます。ヒト、酵母、大腸菌の定量値の比(log2比)はそれぞれ0、1、-2でしたが、Top3定量法を適用した今回の解析では、-0.117 (±0.191)、 0.725 (±0.238)、-1.819 (±0.362) となりました。Top3法は外れ値の影響を受けにくいため、強度の総計を使用する場合と比較して中央値の平均偏差が低くなっています。

詳細はこちらのブログ記事(英語版日本語版)でご覧いただけます。

南米の有袋類動物に対するペプチドマスフィンガープリント法の適用:動物園考古学および古生物学のための新たな研究資源

Peptide Mass Fingerprinting of South American Xenarthrans: A New Resource for Zooarcheology and Palaeontology

Mariya Antonosyan, Roshan Paladugu, Michael Ziegler, Gabriela Prestes Carneiro, Eliane Chim, Andre Menezes Strauss, Diego Mendes, Rafael Lemos, Jorge Domingo Carrillo-Briceño, Laura Pereira Furquim, Stefanie Schirmer, Jana Ilgner, Daniela Volke, Patrick Roberts

J. Proteome Res, November 3, 2025, doi:10.1021/acs.jproteome.5c00636

著者らは、リファレンスデータベースの適用が難しい、アルマジロ・アリクイ・ナマケモノなどの南米のキツネザル類を区別するためのユニークな I 型コラーゲン (COL1) ペプチドマーカーのセットについて報告しています。その目的は、質量分析による動物考古学やZooMSです。例えばペプチドマスフィンガープリント法を用いて、断片化され形態学的に判別が難しい骨サンプルを分類学的に識別する事を目指しています。

現生および絶滅種のナマケモノやアルマジロの参照骨標本は、ライプニッツ進化生物多様性科学研究所(自然史博物館)、ゴイアス連邦大学人類学博物館、クルト・ニムエンダジュ考古学研究所、チューリッヒ大学動物学博物館から収集しました。現生の各分類群と絶滅種1種について、公開されている注釈付きゲノムを in silico で消化し、COL1 の適切な候補マーカー配列を同定しました。トリプシン消化後、サンプルをMALDI-TOF(Bruker AutoFlex)で分析し、候補として挙げた12の標準マーカーについて、存在する/しないを確認する表を生成しました。

候補マーカーはLC-MS/MS(Orbitrap Exploris 480およびWaters Synapt)を用いて確認しました。各分類群における代表的モデル生物のタンパク質配列を、哺乳類の COL1 オルソログと組み合わせました。トリプシン消化の後、配列の変異や予期しない可変修飾に対応するため、Mascot のError Tolerant検索を行いました。

その結果、現生種および絶滅種に対して、合わせて10種のペプチドマーカーを確認でき、異節上目(Xenarthra)の現行の系統枠組みを裏づけることができました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Windows 10からLinuxへの移行

Illustration for Mascot

マイクロソフトは2025年10月14日にWindows 10のメインストリームサポートを終了しました。PCハードウェアが良好な状態でもWindows 11に対応しない場合廃棄しなければならないでしょうか?その場合、OSをLinuxにして使うのはいかがでしょうか。

Mascot Serverはすべての最新Linuxディストリビューションに対応しています。Windows版とLinux版に機能的な差異はありませんが、移行を検討される場合はLinux管理の基礎知識が必要でしょう。

保守契約にご加入の方は移行が無料で実施可能です。何かありましたらお気軽にご相談ください。

旧バージョンのMascot Server 2.xライセンスをお持ちの場合は、最新版への更新をお勧めします。現在アップグレードキャンペーンを実施しております。ご興味がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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