今月のブログは、MASCOTで使用するDDAスペクトルライブラリの作成および検索についてです。
今月の論文は、リシンのアミノアシル化に対応した直交翻訳系に関する研究です。
今月のお知らせは、2026 ASMS における発表内容についてです。
Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版、日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
質量分析法を適用することで、培養が困難な細菌や増殖速度の遅い細菌を迅速に同定する事ができます。迅速な同定は患者に速やかな治療の提供を可能とします。その中でも最も迅速な同定法は、測定したMS/MSスペクトルデータを、特定生物種に特異的なペプチド配列群として集めたスペクトルライブラリ(SL)に対して検索する方法でしょう。
Chinmaya Kotimoole氏らは2024年に発表された研究において、26のデータセットから収集された7種の非結核性マイコバクテリウム(Mycobacteria,抗酸菌群)のプロテオームを解析し、合計2,000万件以上のペプチド-スペクトルマッチ(PSM)を得ました。様々なタイプの質量分析装置とMascot Serverを含む検索エンジンを用いてDDAデータの解析/再解析を行い、解析結果をSkyline上で計算処理させることで、最終的にBLIB形式のDDAライブラリデータベースを得ました。
私たちは公開されているライブラリをいくつか選び出し、自身で作成したスクリプトblib2mspコンバーターを用いてMascot Serverでも使用可能なMSP形式に変換しました。これらの検体および最初のスペクトルライブラリ生成に使用された検体には、複数のマイコバクテリウムのほか、ヒトタンパク質、BSA、培養培地由来の関連ウシタンパク質も混在しており、「純粋」なものではありませんでした。そこでさらに追加の処理としてユニークペプチドの抽出、すなわちスペクトルライブラリから全てのペプチド配列を抽出し、Unipept上で処理して生物種固有の(ユニークな)ペプチドの情報を得て、それらのスペクトルのみを含むようライブラリを再作成しました。
この手法の有効性を実証するため、私たちは別のマイコバクテリアを扱ったプロジェクト(PRIDEプロジェクト PXD059923)のデータを入手し、フィルタリング済みのスペクトルライブラリに対して検索を行いました。FASTA配列データベースと種特異的SLを組み合わせて検索を行う方法がお勧めで、MASCOT Serverにて既に実装されている機能です。このテストデータセットに対する解析において、種固有のペプチド情報へのヒットを根拠として複数の種を特定・検出することができました。詳細な手順と結果は当ブログに掲載されています。こちらのブログ記事(英語版、日本語版)をご覧ください。
Xinyu Li, Qinglei Gan, Chenguang Fan
Journal of the American Chemical Society, 2026, 148, 11, 12411–12422, doi:10.1021/jacs.6c03157
リシンアミノアシル化はヒトにおいて最近発見された翻訳後修飾ですが、標的リシン残基が部位特異的かつ均一にアミノアシル化されたタンパク質を調製することが困難であるため、その研究は未だ十分に進んでいません。そこで著者らは、リシンの10種類のアミノアシル化に対応し、細菌細胞および哺乳類細胞の双方で利用可能な直交翻訳系(orthogonal translation system; OTS)を確立しました。具体的に著者らは、遺伝暗号拡張(genetic code expansion)戦略を用いました。これは、アミノアシルtRNA合成酵素(AARS)がアミノアシル化リシン(AA-K)を基質として認識するよう改変され、さらに改変tRNA(通常はアンチコドンを変異させたもの)が、指定したコドンを読み取るという方法です。
著者らはこの手法を用いて、必須代謝酵素の機能および細胞代謝に対するリシンアミノアシル化の影響を、in vitro および in vivo の両条件で実証しました。著者らは、AA-K含有高折り畳み性緑色蛍光タンパク質(sfGFP)、AA-K含有ピルビン酸キナーゼM2(PKM2)またはグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)、アセチルリシン含有PKM2またはG6PD、さらにVal-K含有PKM2を発現・精製しました。サンプルはSDS-PAGEによって分離し、Thermo LTQ Orbitrap XL を用いた LC-MS/MS で分析された後、Mascot Server を用いてDDAスペクトルライブラリに対する検索を行うことで修飾リシン残基の同定および修飾部位の特定を行いました。さらにPKM2変異体の構造について円二色性(CD)分光法で解析し、Seahorse XF 解糖速度アッセイにより解糖速度を測定しました。
Matrix Scienceは、今年6月にカリフォルニア州サンディエゴで開催されるASMS 2026に出展いたします。ブース番号616へ是非お立ち寄りください。
弊社では、MascotにおけるDIAデータ対応の最終調整に尽力してまいりました。ASMS 2026では実際のデータを用いたMascot DIAに関する3つのポスター発表を行います。
Mascot DIA introduces probabilistic scoring to spectrum-centric analysis of DIA data.
発表者:Ville Koskinen
Thursday 3 June, Informatics: Peptide ID and Quantification.
Mascot DIA enables direct comparison of DDA and DIA identification and quantitation results.
発表者 : Patrick Emery
Thursday 3 June, Informatics: Peptide ID and Quantification.
Overcoming Peptide-Centric DIA Limitations: Discovering Unsuspected Modifications in Narrow-Window DIA Using Mascot Error Tolerant Search.
発表者 : Richard Jacob
Thursday 3 June,Peptides: PTM Identification
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